道ありき (前川正さんの祈り)

その日二人は、初めて口づけを交わした。

「お誕生日のお祝いですよ」

彼にいわれて、わたしは驚いた。

「これがお祝だったの。すばらしいお祝ね」

彼は静かに、若草の上にひざまずいて、二人の為に祈ってくれた。

「父なる神様。わたしたちはご存じのとおり、共に病身の身でございます。しかし、この短い生涯を、 真実に、真剣に生き通すことができますようにお守りください。どうか最後の日に至るまで、神とお互いとに真実であり得ますように、お導きください」

二人はいつしか涙ぐんでいた。わたしは彼の真実な愛に心打たれて涙ぐんだのだが、彼は自分の命短いことを思って、いつの日にか残されるであろうわたしの身を思って涙ぐんだのであろうか。

「一生懸命生きましょうね」そう言った彼の言葉が、いまも聞こえてくるような気がする。


なんと美しい祈りでしょうか。
三浦綾子さんをクリスチャンへ導いた前川正氏。
最後の日に至るまで、神とお互いとに真実でありますように。
「道ありき」何度よんだことでしょうか。



 

道ありき―青春編 (新潮文庫)

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